4月からスタートした「1万人のクリエイターミーツPASS THE BATON」のデザインプロジェクトも、今回のVol.4でいよいよ最後のアイデア募集です。
最後のお題は、アイウェアブランド「JINS」の眼鏡フレーム端材(アセテート)を使った、新しいプロダクトのアイデアを提案すること。これまでのプロジェクトの中でも最多の応募数、91作品が集まりました。素材そのものがカラフルで、切断や圧着、曲げ、磨きといった柔軟な加工が出来ることから、アクセサリーから文具、玩具、日用品、巨大なチェアにいたるまで、幅広い提案が集まりました。
今回のアイデア募集で初めて行われた試みが、募集課題の眼鏡フレーム端材実物を希望者に配布する取り組み。「端材」としての特徴・背景や素材の質感を活かしながら、いかに魅力的かつ商品化を見据えたリアリティのある提案ができるかが期待されます。
「アイデアの面白さ」から「リアリティ」までの距離
審査会の中で、注目を集めたアイデアをご紹介します。
まず審査メンバーの間で話題になったのが、JINSの端材を将棋の駒に見立てた、山下 公明さんのアイデア。思い切りの良いキャッチコピーが目を惹きました。
林:「この手触り、覚えがある」って、笑っちゃった。将棋は知育玩具ですからね。面白いかもしれません。
渡邉:下の色を出すっていう、目の付け所も良いよね。
植原:僕もこの素材を見た瞬間ね、将棋に似ているなって思ってた。この案、文字がもうちょっと凝ったタイポグラフィだったらありかもしれないんだけれど。
遠山:面白いんだけど、ただ商品として売れるかどうかは…。
林:受注生産だったら、在庫を持たずに…ということで実現できるかもしれないですが、とはいえ、「400万個の端材」を活かすのは難しいかも。
次に、話題にあがったのが、福田香子 / aguraさんの提案です。
遠山:僕が気になったのは、このパーツを分解してまた新しいメガネを再生させるっていうアイデア。それぞれ色も形もバラバラなものからフレームを作るなんて、ゼロからの商品開発では絶対に生まれない企画。はまったら一点モノになりそう。
林:ただ、「本当にできるのかな」というところは心配ですね。もちろん、計算しているんだろうけれど、実際に作ってみたらうまくいくかどうか。
渡邉:製造に大変な労力がかかってしまいそうですね。
あくまで、ゴールは「商品化」と「販売」
応募作品に対し、審査メンバーから「アイデアとしては面白い」「デザインはかわいい」というコメントが出つつも、協議が進むうちにその多くが「実現が難しそう」「果たして本当に売れるのか」など、商品化・販売へのハードルが高いということが予想されました。
たとえば、端材を一度に大量に使うアート作品はインパクトがあるものの、プランの精度から「本当に実現できるかどうか」という点が懸念されました。
また、文具や実用品などのアイデアも数多く応募されましたが、リサイクルプロダクトとして、「(加工の手間・工数に対して)単価を安くしないと売れないのではないか」「可愛いけれど、実際に使われるのだろうか」といった点で、採用が見送られました。
最終的に、実現可能性や商品の魅力という点で最も評価されたのが、mano-keisukeさんの作品「Ka-Sa-Ne [Brooch]」でした。
遠山:これは実際に試作したから、ぽってりとした可愛い感じの質感がでているんだろうね。
渡邉:こういうデザイン、今までなかったかと言われれば、どこかにあったかもしれない。でも、きれいだよね。
植原:うん、きれい。磨きをかけた実物を見てみたい。
林:やっぱり、試作しているからちゃんと説得力もありますね。ブローチだけじゃなく、ピアスなどいろいろなアクセサリーの可能性が広がりそう。この方に、アクセサリーシリーズとしてお願いするのもありかもしれない。
その場で作ってみたら…
さらに、植原さん・渡邉さんが注目したのが、おなじくmano-keisukeさんのこちらの作品「Glasses-duck」。
植原:これ、意外にありかもしれない…。
渡邉:もとの端材の形を活かしたまんまくっつけるというアイデアは、面白いのかも。メガネと関連しているところが、いいんじゃないかな。
「気になったら試してみよう」ということで、なんと、ふたたび植原さん・渡邉さんがその場でプロトタイプを作ってしまいました。
渡邉:だんだんかわいくなってきちゃった。すごいよくなってきちゃったね(笑)。
林:写真映えもしますね。これ、JINSのお店にあったらよさそう!
遠山:300羽くらいがズラッと並んでいても、展覧会みたいでおもしろいかもね。
こうして、ブローチとグラススタンド、そして更なる商品展開の可能性も含め、今回はmano-keisukeさんの案が商品化に進むことに決定しました。最後に、審査メンバーからの総評をご覧下さい。
審査メンバーからの総評
スマイルズ 遠山 正道
素材がかわいくモダンだったということもあり、全般的に提案もすごく垢抜けたものになっていたので審査していて楽しかったです。ただ、「今回はすごくいけそう」とおもった割になかなか決め手になるアイデアが見られず、長考を要して、最終的にマノさんの手技が光ったなという印象です。
アセテートの端材という素材自体に魅力があるので、これから商品化に向けてデザインを詰めていけば良いものができそうです。JINSさんも巻き込みながら、楽しくできたらいいなと思っています。
キギ 植原 亮輔
今回は、メガネとの運命性や関連性みたいなものを探しながら審査をしていました。採用された鳥の眼鏡スタンドのアイデアは、よく見てみると意外とかわいかったです。JINSさんと一緒にやる意味があるような商品が生まれるといいなと思います。
キギ 渡邉 良重
あらゆることにいえるのだろうけど、アイデアと素材を結びつけるためのちょっとした運命性とか、関係性が大切。これまでの繰り返しになりますが、やはり「加工すればなんでもあり」というのは「なし」だなと思いました。端材の形を活かすとか、ちょっとの加工でできるものが毎回面白いと感じたし、意味があるなと。今回の鳥とブローチのアイデアも、まさにそうでした。
ロフトワーク 林 千晶
素材がかわいいだけに、あっとおどろくようなアイデアを期待していたていたのですが、突き抜けた案が見られなかったのが残念。年間400万個もうまれる端材を活かすための「より生活の中に入り込むデザインがあるのでは?」という課題が自分の中に残ったままなので、第二弾をどこかでやりたいですね。
採用案については、「ちゃんと実現できるかどうか」が重要なポイントでした。今回は「ディスプレイ上ではいけそう」というプレゼンテーションが多くみられましたが、「本当にできるのかな?」という疑問が拭えないものが多かった印象です。そんな中、mano-keisukeさんは、実際に作ってみたというところに信頼感があったし、情熱を感じました。
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