かっこわるい、でも最高に心地いい! 視点の変換とデザインの力が「日本の肌着」に光を当てる
1万人のクリエイターミーツPASS THE BATON、第3回目にリサイクルに挑戦するテーマは、元祖・日本のあったか生地ともいえる、「らくだ生地」。らくだのももひき、シャツといった冬用肌着の製造工程で必ず発生してしまう端材を、クリエイターのアイデアで素敵なプロダクトへと変身させるのが、今回のチャレンジです。
ユニークなステテコブランド「steteco.com」設立者で、今回のプロジェクトに素材を提供してくれた、株式会社アズ 武村桂佑さんにお話を伺いました。
冬はやっぱりこれじゃないと…「らくだ」の魅力
今回の「1万人のクリエイターミーツPASS THE BATON」プロジェクトでは、冬の肌着素材である「らくだ生地」に光を当てます。
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今回のテーマとなる、「らくだ生地」の端材。縦47~59cm、横55~59cm程度、筒状の布に、必ず「継ぎ目」があるのが特徴です。
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らくだ生地の色はらくだ色 、ベージュ、グレーといった色が中心。素材づくりから製品の縫製まで、すべて国内でつくられています。
「らくだ」と聞くと、「おじいちゃん・おばあちゃんが着ているあったかい肌着」を連想しませんか? 実際にはどんなものなのでしょうか?
プロジェクトのテーマとなる「らくだ生地」は、いわば日本のものづくり技術が集約された素材。ふっくらとした肉厚の生地と柔らかな肌触りの裏起毛が特徴的です。弊社で最も定番のラクダ生地は、上質な着心地を実現するために、愛知、三重、熊本の3箇所の工場が連携して作っています。
肌に優しく、着心地が良いので、「最近の大手アパレルメーカーの薄くて軽い機能下着ではだめ。らくだじゃないと!」というファンも少なくありません。海外にも愛用者がいて、問い合わせを受けることもしばしば。
「私たちが扱う商品は、ふだんはアウターの下に隠れて見えてこない、肌に密接するものが中心です。きらびやかさやファッション性以上に、『肌に馴染む』とか『着心地がいい』ことが生命線なんです。着心地では、大手には絶対に負けません」(武村さん)
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三重の工場で行われる起毛加工(左)と、熊本の自社工場で行われる、裁断(右)。
愛知の工場では、国内外を含めて希少になっている「三段両面編機」という古い編み機を使用。また、三重の工場も、よりふっくらと温かい生地に仕上げるための高い技術を持っています。
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熊本の自社工場で働く人々
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「『らくだ』の良さは分かったけれど、これで本当にかっこいいプロダクトがつくれるかしら…?」なんて、ちょっと不安に思う方もいるかもしれません。
デザインの発想・視点を変えるヒントになるのが、武村さんが2008年に設立したブランド、「steteco.com」。創業74年、大阪の老舗肌着メーカーから生まれたsteteco.comは、「ださい下着」の代表ともいえる「ステテコ」をオシャレなファッションアイテムへと変身させることに成功しました。
この快感を伝えたい!! steteco.com誕生秘話
「暑い日にもう一枚穿いたら、よけい暑いんちゃうかな…と思ったら、本当にびっくりするぐらい気持ちよかった」
武村さんが「ステテコ」に夢中になったのは、入社したばかりのころ、真夏に先輩から「スーツの下に穿いてみろ」と薦められたのがきっかけでした。
ステテコをズボンの下に穿くと汗を吸収・発散するため、夏場も蒸れずに快適に過ごせます。さらに、家に帰ってズボンを脱げば、ステテコ一枚でそのまま「くつろぎモード」になれるのが何とも気持ちいい。「ださい下着」「おじさんの下着」「カッコ悪い.」というイメージはあるものの、実際に着てもらうと、若い世代からも「気持ちいい!」「きっと売れる」という声が集まりました。
「不謹慎な表現かもしれないですが、『一度穿いたらやめられない』ということで、業界では『ステテコには中毒性がある』とまでいわれているものなんです。商品の魅力は十分にあるはずなので、女性も含め、ステテコをいままで穿いたことのない世代に穿いてもらえるようなものをつくりたいな、と」
そう考えた武村さんは、新しいブランド「steteco.com」を立ち上げました。
下着売り場で「売らない」大胆作戦
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steteco.comは、ビビッドカラーや大胆な柄をデザインに取り入れたほか、HIROCOLEDGEやNUNO Worksといった気鋭のクリエイターとのコラボレーションを実現。ファッションに敏感な若者を魅了しています。
社内外の様々な人々の協力を得ながら、新ブランド「steteco.com」は動き始めました。武村さんはデザインを新しくするだけでなく、商品の「売り場」にもこだわりました。
「私も含め、若い世代が感じている、ステテコの『ださくて古臭い』イメージが、逆に新鮮でおもしろいんじゃないかと思ったんです。その面白さをアピールするために、いままでと違う切り口でステテコを見てもらえるような売り場を探すことにしました。
たとえばミュージアムショップとか、セレクトショップとか、インテリア雑貨を売っているようなところを中心にアプローチしてみたんです。初めはあえて、従来の百貨店やスーパーの下着売り場には持っていきませんでした」
こうした戦略は功を奏し、ブランドが誕生した2008年からファッション雑誌などのメディアでも取り上げられました。さらに、武村さんの思惑通り、実際に商品を購入した人がステテコの気持ちよさにはまり、リピートやクチコミを通じて徐々にファンが拡大。今では、その人気に触発された大手アパレルメーカーが、若者向けのルームウェアとしてステテコのコレクションを手掛けるほど、その認知度は広がりました。
日本の元祖・あったか生地に、新しい切り口を
「らくだ」とステテコ、日本ならではの肌着について熱く語ってくださった武村さんに、「1万人のクリエイターミーツPASS THE BATON」に参加するクリエイターに向けて、期待していることを伺いました。
「正確な記録は残ってないんですが…このらくだ生地は、暖房があまり普及してないような時代から、もう35年以上、作りつづけられている素材なんです。この風合いといいますか、魅力・良さは絶対あるはずなので、クリエイターのみなさんに新しい形で活かしてもらえると嬉しいです。こちらの期待をいい意味で裏切ってほしいですし、一緒に『日本のらくだ』の復活の気運を生み出していきたいですね」
温かな肌触りや風合い、筒状の形などを活かしつつ、これまでの「らくだ」のイメージが180°変わってしまうような、斬新なリサイクルプロダクトのアイデアをお待ちしています。
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「らくだのももひき」のあたたかさと肌触りの良さは抜群
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