8月、「1万人のクリエイターミーツPASS THE BATON」Project Vol.3 の審査会が行われました。
今回募集されたのは、らくだのももひきなどの防寒下着の素材、「らくだ生地」の筒状の端材を活かしたプロダクトのデザイン・アイデアです。らくだの下着という「ださい」「古い」イメージのものを、どうやって魅力的なプロダクトに生まれ変わらせるのか?
この難しい課題に対し、採用されたデザインはいかに視点を転換し、新しい価値を提示したのでしょうか。ご覧ください。
リサイクル素材、どこまで手を加えるのが「ちょうどいい」?
スマイルズ遠山さん、キギの植原さん・渡邉さん、ロフトワーク林ら審査メンバーは、まず実際の端材サンプルに触れながら、応募案の中で多く見られた「服」「ファッション」という方向性について意見を交わしました。
林 「このらくだ生地、女性的には好きな素材ですよね。部屋着にしたら気持ちよさそう」
渡邉さん 「うん、気持ちいい。こうやって、スカートみたいにしてもけっこう可愛いですよね」
植原さん 「ちゃんとしたファッションデザイナーの方が手掛ければ、いい感じになりそうだけれど」
遠山さん 「でも、例えばここからまっとうに服を作るとすると、取り都合はどうなのかな。それなら、普通に生地から作ったほうがいいっていうことにならない?」
Project vol.2 の課題と同様、今回のラクダ生地も「コストや手間をかければ何でも作れる」素材のひとつ。肌触りの良さ・保温性・伸縮性などの「長所」を活かしつつ、端材ゆえの制約条件をプロダクトの魅力へと変換していくための視点の置き換えが評価のポイントのようです。
「やっぱり、この筒の形を利用したもののほうがいいかもしれない」
話し合いの結果、筒の形とらくだ生地の色を活かしてクッションケースにした「RECYCLED RAKUDA FABRIC ROOM RELAX SET」(Wolf.project さん)が採用案となりました。(作品への詳しい講評は こちら)
この商品は、同じ素材で作るブランケットと「もんぺ」をケースに入れることで、肌触りの良いクッションになります。ただ、「もんぺまでは作り過ぎかも」という審査メンバーの意見から、実際の商品開発ではブランケットとクッションカバーを中心とした商品開発になる予定です。
プロトタイピングで確信できた「やっぱり可愛い」
今回の審査会では、公募の応募作品のほかに6月に開催された台湾デザインセンター主催のワークショップから生まれたプロトタイプ(試作品)も、商品化するかどうか検討されました。
限られた時間の中でメンバーが集中して新しいプロダクトを生み出す「メイカソン(Make-a-thon)」という方法のワークショップで、台湾と日本のデザイナーがその場でチームを組み、2日間集中して公募と同じ課題でデザイン検討~プロトタイプまで制作しました。
今回、5つの参加チームの中でCamelチームによる提案が高く評価され、特別に商品化が決定しました。
Camelチームでは4人が言語の壁を越えて協働し、それぞれの得意を活かしながらひとつの作品を作り上げました。背景となるコンセプト/ストーリーからトルソーをイメージしたパッケージ、アフリカの文様をイメージしたタグのデザインまで。とても初めて出会った人同士が2日間で作ったとは思えない、完成度の高さが審査メンバーから評価されました。
植原さん 「グラフィックもここまで出来上がっていると、「いいな」って思っちゃいますね」
林 「意外に軽くてきもちいい。色の組み合わせが可愛いですね」
植原さん 「着けてみると、意外とおしゃれじゃない?」
林 「Camelチームは実際に素材どうしを繋いでみたり、首にかけてみたりしながら、それがちゃんと「可愛くなる」って確信を持って制作を進めていました。これはワークショップならではのアウトプットですが、やっぱり実際に触ってみてもらうプロセスって大切にしたいですね」
一方で、デザインの特徴として取り入れられた波型の縫い目については、着用しているとあまり目立たない様子。
「らくだのこぶのイメージで作ってるのは分かるけれど、まっすぐ縫ってしまっていいのでは」(渡邉さん)
との意見も。
さらに、波型のカットをいれるとリサイクルする生地からロスが出てしまうため、実際の商品開発で再検討するべきポイントとして挙げられました。
審査メンバーからの総評
スマイルズ 遠山 正道
最初に今回のテーマが決まった時はちゃんと着地できるかどうか心配でしたが、私の想像を超えていいデザインが出てきたので安心しました。特に、ワークショップから生まれた「Couple Camel」は、コンセプトとグラフィックの力がちゃんと発揮されたプロダクト。「1万人のクリエイターミーツPASS THE BATON」のアウトプットとして、ふさわしいものでした。
やっぱり我々は売る立場なので、やるからには商品として成立させていかなければという思いが、審査の回数を重ねるごとに強まっています。ただ「おもしろいから」だけじゃなく、喜んで買ってくれるお客様がいることを想像し、さらに製造工程までも想像されていること。その点で、採用案は本当に扱いやすいし、お客様も喜んで買ってくれそうなものに着地できたと思います。
キギ 植原 亮輔
僕も、最初に出題内容を見た時は、本当にできるのかなという気がしていました。自分で作ってみたとしても、正直できるかどうかわからないです。でもよく考えてみると、あの質感だけを見せられてキャメルをテーマにと言われたら、意外と方法があるのかもしれないですね。あの「らくだ下着」のイメージにとらわれることなくきちんと着地できて、素晴らしいと思います。
キギ 渡邉 良重
らくだの端材を「布」だととらえれば何でも作れてしまいますが、そのように扱ってしまうのは課題の主旨には合わないような気がしています。何でもできる分、難しい課題でもあるなと感じました。
採用案は端材の筒の形を活かしていましたが、ただ筒なだけでは「そのまま」過ぎてしまう。グラフィックとの組み合わせによって、商品としての魅力が伝えられたのだと思います。実際の商品化の過程で改善が必要そうな箇所もありましたが、出来上がりを信じています。
ロフトワーク 林 千晶
リサイクルプロダクトのクリエイティブには元の素材が生きるギリギリのラインがあり、それと向き合う姿勢が大事なんだなと思いました。
素材そのまますぎるのも魅力が弱いですが、凝りすぎたり変えすぎたりするのは製造コスト的にもプレゼンテーションとしても、無理が出てきてしまいます。どこか1つだけクリエイティブを加えるとしたら何をどう加えるのか、まるで思考トレーニングのようですね。採用案の「Couple Camel」は今回のパズルをすごくうまく解けた作品だと思います。
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